あの時熱を出していなかったら
「タララバを言っている人はいつまでも、タララバを言い続けると思う。」
これは、私がTwitterのフォロワーに言われた言葉だ。私の心の中にずしっと響いて、今でも自分のエンジンにしている。でもね。
言われた直後は、本当にショックだった。
今はもうあまり言わないようにしているタラレバ。私はどうしても、永遠に言い続けるであろうタラレバが1つある。
それが、
あの時熱を出していなかったら。
社会人1年目で結婚を視野に入れていた彼氏と別れた私は、とにかく仕事に明け暮れた。
でも2年目に入った途端、全て疲れてしまった。その時に、ある男性と出会った。
彼は1歳年上で同じ職業だった。
ただ臨時だということで、勉強している、と言っていた。
私は偉そうにも、
「私でよかったら力になるよ!」
と言っていた。
嬉しかった。
同じ職業の人と毎日電話して、今日はこの勉強をするとか、したとか、子どもの様子が可愛かったとか、同じ学校の先生が優しいとか、そんな話ができた。
彼はたくさん話してくれた。私もたくさん話した。
たくさん聞いてくれた。たくさん聞いた。
誕生日前日の深夜、日付が変わる前に私はコンビニのお菓子をたくさん買い込んで、時計を見ると0:00だった。
その瞬間に、彼から電話が来た。
私は咄嗟に
「なんで、私の誕生日、知ってるの?」
と意味不明な質問をしてしまった。
彼が電話をかけてきたのは偶然だった。
私の誕生日なんか関係なかった。でも嬉しかった。
その日もたくさん話して、夜初めて会うことになったのに、私は少し遅刻してしまった。
私の家の近くのおいしいパスタ屋さんに集合だった。
後ろ姿しか見えなかったけど、初めて顔を見たとき、私は初めての経験をした。
顔を見ただけで、すごくすごく好きになってしまった。
かっこいいわけではない、自分の好みなわけではない、背がすごく高いわけでも、ムキムキマッチョなわけでもない。
とても普通で声しか知らなかった人に、
私は一目惚れしてしまった。
自分でもびっくりするくらい気が合う。
同じ職業だから話も合う。
パスタを食べて、夜桜を見た帰り、
私は、告白をした。
(今でも、これはいきなりすぎたと思ってる。)
彼は
「かとうさんのこと知りたいから、たくさん出かけたい」
と言ってくれて、私たちは、
1週間に1度か2週間に1度会うようになった。
やっぱりそうやって過ごす中でも、
価値観とか食べ物とか考え方とか。違和感を感じることがなくて、どんどん好きになっていって。
私は毎回、好きと伝えていた。
付き合いたかったけど、彼はなかなか首を縦に振ってくれなかった。
それでも、彼と会えることが幸せで、久しぶりの恋が楽しくて、少し辛かった。
気持ちが通じてないのはわかっていた。
教員採用試験も1ヶ月前まで迫り、
私たちは会わないことにした。
終わったら会おう、と約束して。
私も学期末だしちょうどよかった。
彼の邪魔にもなりたくなかった。
教員採用試験前、
「頑張ってね。あなたなら、合格できるよ」
と送ったLINEは既読無視だった。
約1ヶ月後、彼の誕生日近くなったので、
私は、どきどきしながら、
「誕生日か、その近く会えない?」
と久しぶりにLINEを送った。
案外すぐに返ってきて、誕生日の次の日会えることになった。
私はその前日は、友達との旅行が入っていたから、旅先で友達と、明日渡すプレゼントのお菓子を選んだ。
友達は、
「喜んでくれるといいね。」
と言ってくれた。
美味しそうなクッキーを選んだ。
なんて言って渡そう、なんて想像しながら、帰路の私はずっとワクワクしていた。
しかし旅行から帰った日の深夜、私は39.0℃まで熱が上がってしまい、救急病院に行った。
明日はやっと好きな人に会えるから。
どうか熱を下げてください。
心の中で自分の体に何回も話しかけた。
点滴が終わって、時計を見ると朝4時だった。
そういえば、今日は研修も入っていた。
熱さましを飲んだけど、37.8℃だった。
今日、好きな人に会う事も研修も無理だった。
私は、好きな人に今日会えないことを、学校に今日の研修に行けないことを連絡し、
その日は1日泣きながら寝た。
好きな人は、
「また予定調整して会おう。」
と言ってくれた。
彼と会うことはそれから二度となかったのだ。
私は、1ヶ月後には、自分のことをとても思ってくれるパートナーができた。
私のことを思ってくれる。とても幸せな毎日だ。
年末、好きだった人と連絡をとって、彼にも新しい彼女ができたこと、教員採用試験の結果なども聞いた。
私は付き合わなくてよかったと思った。
好きで好きでどうしようもないくらいに想った相手は、付き合えないくらいがちょうど良いと思うことにした。思わずにはいられなかった。
でもいつも思う。
私があの日熱を出していなかったら、
私はそれからも彼と会い続けただろうか。
付き合えただろうか。
付き合えたとしたら、
私は幸せだろうか。
でも一つだけ、
彼と私の共通点である「仕事」
それに対する気持ちが、圧倒的に違った。
好きだった時は気づかなかった。
たとえ付き合えたとしても、
そのことでうまくいかないのではないだろうか。
そんな予感もする。
今でも彼は夢に出てくるし、人伝に彼の話も聞く。来年、もしかして同じ学校に赴任してくるかもしれないし、いつかは一緒に働くかもしれない。
彼が今年1年幸せに過ごせますように。
そしていつか、彼への気持ちが私の中で綺麗に昇華されますように。
恋の終わりなんて、いつも突然で曖昧で、
スパッと「はい終わり!」ってならないから、
人は永遠に恋について悩み続けるんだろう。
好きな人に会えなかった私は未だ、
あの夏の日で止まっている。周りだけが動いている。
いつか違った形で会えることを期待しながら、これからも過ごしていく。
切なくてきらきらした私の24歳の恋は、きつとこれからの人生で生きていく。
たとえ私がまだ止まったまま動き出せていなくても。
おわり。
p.s.
思ひつつぬればや人のみえつらむ
夢と知りせば さめざらましを
ずっと前の時代を生きていた小野小町でさえ、
同じような気持ちになったこと、あるんだよなあ。
いつか彼の夢も見なくなるだろうか。
この曲も、まるで私たちのようで、
エモッて気分になります。